194. 本格派・気仙沼弁---38 <東京さ行ぐ> (2000.11.13)

「東京さ遊びさ来る?」と言ってみると
「行ってみっぺが?」と母の声が輝いた。

9月に両親を連れて日光に遊びに行く計画を立て、旅館やJRも押さえたのに、私の病気のせいで、またしても中止となってしまった。
5年前から旅行計画を立てては、祖母の病気・父の病気・祖母の死・父の病気・私の病気など計画の時に限ってトラブルが発生し、いまだ達成できていない。
毎日「旅行に行きたい」モードの母はフラストレーションがたまりっぱなしだ。
母は私の病院に看病に来たが、看病のための東京は遊びに行く気分とはかなり違うようだ。

「おら東京さ行ぐだ」と歌ったのは吉幾三。
東北では、「〜〜〜に行く」ことを「〜〜〜行ぐ」と言う。

「どこに行くの?」は、「どごさ行ぐの?」(略すと「どさ行ぐの?」)
「東京さ行って来たでば」(東京に行って来ました)ってな感じ。

「どご見だいの?」と聞くと
「お台場さ行ってみだい」だと(笑)
父ちゃんとデートと洒落てみますか?

「あどは?」(他には?)と聞くと
「巣鴨」
「え? 巣鴨???」
「おばあちゃんのハラジュグだでば」
「あ〜〜〜、とげ抜き地蔵ね」

お台場と巣鴨とは、さすがな組み合わせ。
「あどは、銀座をプラプラどして帰っぺ」(あとは銀座をぶらついて帰りましょ)
「東京さ行ぐっツばりもイーオンね」(東京に行くだけでも楽しいよね)

祖母が亡くなった後、心にポカンと穴があき、仕事から離れたことで、すっかり気が抜けてしまった母は、心のおきどころがなくなり虚脱感に見舞われている。
いきなりやってきた第2の人生をどう過ごしていいのかわからないといった様子。
気を使いながら姑と過ごし、忙しいとぼやきながら仕事をしていた時の方が張り合いがあり、達成感があったのだろう。

昨年までは、最も忙しい秋に旅行が出来るわけもなかったが、今年は余裕がある。
第2の人生なのっサ。

最初のドヨ〜〜ンとした声が、電話を切る頃には、活き活きと響く。

今度こそ、みんな身体に気付けなくて、わがんねよ。

つづく...