ばあさんは、1年以上寝たきりだ。
すっかり痩せて、こんなに小さくなれるのかと感心するほど、小さくなってしまった。
この冬、父が5カ月ばかり入院した。
自分が退院すると、まっさきに母(ばあさん)の見舞いに行ったそうな。
「ばあさんや大丈夫すか?」とたずねると、
「あんだ誰っさ?」と言われたそうな。
とうとうボケた。
父・ショック!
父は、祖父亡き後、ずっとばあさんの面倒を見てきた。
「ボケたって、自分の事だけはわかってくれる」と信じていたらしく、
「あんだ誰?」には、相当、参ったようだ。
さて、私がばあさんに向かって「私の事わかる?」と聞くと、
「だ〜れ、孫だもの」と言う。
父は、「え?」ってな顔でこちらを見る。
「この人だーれ?」と看護婦さんが聞くと、「リーコ」と答える。
ばあさんは私のことを「リエコ」と言えずに「リーコ」と呼ぶ。
「どこに住んでいるの?」と看護婦さんが聞く。
「トーキョ」
場内ざわめく。
父は、「ほんで、俺のごと、わがるすか?」と、負けずに聞く。
わかるともわからないともつかない顔で、こっちを見る。
「おばあさんや!」父、必死。
すると「さんま買ったのすか?」だって。
父がさんまで儲けた頃を思い出しているにちがいない。
父の顔がさんまに見えるらしい。
さて、ひ孫のよっちゃんがばあさんを見舞った時の話。
ばあさんの手をとり、
「おっぴーちゃん、こんなに痩せてしまって〜〜...」としんみり言ったそうな。
よっちゃんはまだ4歳なのに、言うことだけは一人前で、病室を明るくしてくれる。