55. そこまで言わなくても... (1999.1.30)

財布を紛失した。
37年と11カ月生きてきて、初めての出来事だ。
正確に言うと、財布をなくして、見つからなかったのは始めての出来事だ。

置きっぱなしにすることは多い。
傘、これはもう、しょうがない。行った先々に置いてきた事・数えきれず。
傘以外の、例えば携帯電話や、財布や、帽子などは、置いてきても、必ずや出てきた。

もともと行動範囲が極端にせまく、置いた場所が特定できるし、これまでは運が良い。
しかし、今度ばかりは、そうはいかない。
そうなって、初めて気づくことがある。

銀行でお金を引き出すために、窓口で並ぶこと20分。やっと自分の番になったと思ったら、
「用紙に記入していないから、ダメ」
用紙を持っていくと「金額だけでなく、口座番号を書け」の、「判子がない」のと、何度もつっかえされる。汗だくになって記入する。

思い起こせば、私が初めて自分用の口座を持ったのは、東京に出てきた1978年のことで、当時すでにキャッシュカードはあった。
だから、窓口でお金を引き出すことは、ほとんどなかった。カードの便利さにあらためて感謝する。

キャッシュカードを再発行してもらうには、身分証明が必要で、さらに手数料とやらの千円と消費税がかかるそうだ。
「運転免許証も無くしたから、身分証明はない」と言うと、「それでは出来ない」そうだ。
「私はオヤマだ」と言うが、そんなことでは、もちろんダメで、出直しとなる。
ちなみに、クレジットカードの方は、電話一本で再発行してくれる事がわかった。この違いは何なんだぁ。

ふ〜〜〜、参ったなぁ〜〜と思っていたら、次に図書館の貸出しカードがないことに気づく。
新宿区に越してきて、やっと先々週作ったばかりのカードだ。
子供の頃から図書館が大好きで、新宿区では、やっと最近になって行った。

「なくしてしまったので、再発行して下さい」とお願いすると、
非常に、迷惑そうに「もう、次は、発行しませんから、大事にして下さい」と言われた。
何度も「すみません」と言い、発行してもらう。
再発行のデータを打ち込む時に、前の発行日を見た図書館のおばちゃんは、何度もため息をつき、「発行したばかりなのにぃ〜〜」といいたげに、日付けをトントンと音を立てて指さし、おもいっきり嫌な顔をする。

めげずに、また本を借りた。カードは、そのままかばんに入れる、とその時に
「あなたね〜〜、そんな入れ方をするから、なくすのよぉ! それじゃ、またなくすわよ! ただかばんに入れると、本の間にはさまって、それでなくなっちゃうのよぉ〜〜(まだ続く)」と大声で、まくしたてられた。
シンとした図書館に響き渡り、オロオロする。皆の視線がこちらに集まる。
「今日はかばんしか持ってないんです〜〜〜。財布ごとなくなったんですぅ〜〜。」と小さな声が宙に消える。これ以上は不可能なほど、小さくなる。

財布を失い、ショックを受けているのに、ダブルパンチでやられる。
なくした方がいけないからしょうがないが、何もそこまで言わなくても、と思いながらスゴスゴと帰る。
せっせと税金を納めているのに、1枚のカードをなくしたくらいで、あんまりではないか。
と、普段なら言ってみるところだが、あと3倍くらい返されそうでやめた。

しかし、次になくしたら、本当にカードは作ってはもらえないのだろうか?
そんなことは、「図書館利用案内」のどこにも書いていない。もし、本当にそんなきまりがあるのならば、それには、善良な区民として抗議しようと思う。
ま、もちろん、もうなくさないこと、なんだけどね。