211. 災難続き (2001.8.21)

台風が来た。
雨が降っている。嫌だなぁ。今日は電車で行くとするか。

いそいそと家を出て、地下鉄の改札に向かう。
同じマンションの住人がゴミを捨ててる姿が見える。と同時にいきなり足をすくわれ転倒する。
「あ」と思う間もなく、胸部をポールにしこたま打ちつけ、バタッと倒れた。
その間を時間にすると0.5秒くらいか。なにしろ一瞬の出来事。

「大丈夫ですか?」先ほどの女性がかけよる。
「・・・」声が出ない。
「大丈夫ですか? どこを打ちました? 立てますか?」
手を貸してくれようとするのだが、動けない。とっさに声も出ない。

「どうした? 大丈夫か?」通りすがりの人が立ち止まる。
やっとのことで、「ここを打ちました」と右腕のつけねあたりを指さす。

「立てますか?」
「動けません」
人がドンドン集まって、5〜6人の人の足が見える。
「どうした? 大丈夫か? 頭打ったか?」
「頭は打ってません。(右胸部を指さし)ここです」と言う。
「救急車を呼ぶか?」と声がする。
すると自転車に乗った人が、「すぐ、そこに病院がある。俺はそこに通ってるから看護婦さんを呼んでくるよ」という声がする。

「がんばって下さい」と声がする。
背負っているパソコン入りのリュックを痛くない左腕からはずしてくれる。
中野区の皆さんは優しい。ジ〜ンとくる。西新宿ではこうはいかないだろうと思う。

看護婦さんが2〜3人、車椅子を押してかけつける。
「大丈夫ですか? 動けますか?」
「動けません」
通行人の皆さんが、私の身体を抱き上げて車椅子に乗せてくれる。

病院の入り口で看護婦さんの介助で立ち上がり、靴を抜いで病院に入る。
「もう大丈夫ですよ すぐ先生を呼んで来ますから」「ハイ」

路上で助けてくださった皆さんへのお礼もしないままだと思うがどうにもならない。
病院のベッドに横になる。
立ち上がるとふらふらして、また転びそうだから横になっている。

血圧を測ると上が70だって。普段も低いんだけど、かなり下がっている。
少し年輩の優しそうな先生がやって来て様子を見る。
「どうしたの?」
看護婦さんが説明をするのを聞きながら、私の身体を診る。
「レントゲン 急いで」と指示が出る。

レントゲン台に横たわる。
まっすぐ上を向こうとすると、右側が痛くて向けない。でも、がんばって、少しずつ横になる。
看護婦さんが介助してくれる。やさしい(ウルウル)。

次に立ち上がって胸部のレントゲンをとる。ふらふらして長く立っていられない。
位置合わせをしては横になり、1枚とっては横になる。
それでもどうにか撮り終える。

点滴を打ってもらう。痛み止めが入っているらしい。点滴の途中にレントゲンの現像が終わる。
ろっ骨が2本折れている。全体にぼやけていて、2本だけなのか、他にも折れているのかが定かではない。
内出血の血が内臓に貯まる場合は、手術して除去するとのこと。
いずれにしても、ろっ骨骨折の場合は、ただ安静にして治るのを待つよりほかにないらしい。
ろっ骨には自然治癒力があるそうな。
そういうものかと思う。

「若い人で3週間、年寄りは4週間ですね」と先生が言う。
本日、私はTシャツに短パンという出で立ちで若く見えるのかな?
「先生、私、若くないんです 40歳なんです」と言う。
「充分に若いじゃないか」と先生が笑う。
見渡すと、こちらの病院にはご年輩のご婦人が多い。ここでは40歳の私も若手に入るようだ。

すぐに入院ということではないらしいので、少し安心する。
が、明日もう一度レントゲンを撮り、その結果をみて3本折れていたり、内出血の血がたまるようであれば手術して取り除くそうだ。
「このところ、毎年のように入院しているんです」と看護婦さんに話したら涙がこぼれた。ウルル(悲劇のヒロイン気分)
災難続き。
点滴を受ける。「40分くらいかかりますよ」「ハイ」じっと目をとじる。

「従業員ならば労災がおりるのに」と余計な事を思う。
私は経営者なので労災に入れないから、通勤途中で事故にあっても労災保険が適用されない。
理不尽だと思う。お車が迎えに来るような経営者は、この日本にいったい何人いるというのだ。
ほとんどは中小企業のオヤジで、皆、従業員ともども、汗水たらして働いている。そして労災にも雇用保険にも入れず、会社が倒産したら従業員には失業保険が出るけれど、経営者には何も出ない。生活の保障はない。

そんなことを考えていたら、点滴が終わった。
再び血圧を測ると「上がりましたよ。上が84です」だって。それでも低いよね。いつもは90はあるのに。
立ち上がるとふらふらしない。湿布をはってもらう。
痛み止めの飲み薬をもらって、あとは家で安静にするのだそうだ。
なにしろ、痛む方(右)の腕を動かさないで下さい、と注意を受ける。
病院は、私の住むマンションの隣(というか、裏手)にある。数十メールという至近距離。
「痛みがひどかったりしたら、すぐに来てくださいね」「ハイ」心強い。
また、転ぶのではないか、という恐怖におびえながら、すごすごと家に帰る。

待合室のご年輩のご婦人方も、「転んで怪我した話」をしている。
「この年になると、転ぶのが一番怖いのよ」って、まったく同感。

突然の事故で、また皆さんにご迷惑をかけてしまいました。
誠に申し訳ありません m(__)m
 追伸:背負っていたパソコン(PowerBook G4)は無傷です。

------翌日、再びレントゲンを撮ったところ、骨折は2本にとどまり、内出血により血のかたまりも認められないことから、手術の必要はなくなった。家でジッと安静にしている。