おでんが旨い季節になった。
「あなたにとって、おでんの王様はなぁ〜〜に?」と質問をしたことがある。
オヤマ家にとっては、なんといっても「卵」が王様。
人数分ちゃんと用意しているはずなのに、「僕の卵がないィ〜〜〜」と末の弟が半ベソをかくこともしばしばある。
卵の色がうす茶色になるまで、汁につかってあるやつなんかはホントに旨い。そこで、少し下に沈めてとっておくと、あくる日には、なくなっていたりする。油断ならないゼ>オヤマ家。
私はてっきり、世の中の人すべてが「おでんの王様は卵だ」とばかり思っていた。違った。
「こんにゃく」だったり「大根」だったり「こんぶ」や「はんぺん」「ちくわ」だったりする。
卵が絶対だと思っていた神話は、あっさりと崩れた。
オヤマ家は大家族だったから、大きな鍋で作った。
それでも、あっという間に売り切れる。料理方法が簡単なうえに、皆が旨い・旨いと食べるから、それに気をよくした母は、冬になると、しょっちゅうおでんを作る。
しか〜し、当時の私は、ほとんど料理の手伝いをしなかったので、作り方は知らなかった。
高校を卒業し、大学の寮に入った私は、朝・夕食付きの生活に甘んじている。
各階にガスレンジが備え付けてあるものの、それは、ただ湯をわかすためだけに使われていた。
冬のある日、同室の先輩が突如「おでんパーティしよう〜」と言い出す。
「おでんを作ろう〜」と言うのだ。
「ええ〜〜〜! 先輩、作れるんですかぁ???」
「おでんなら、まかせて」
「私ダメ〜〜〜」
「大丈夫・大丈夫! まずは買い物よ」
どうも、先輩の料理の腕前も怪しい。ホントに作れるの?
4人部屋の私達は、4人そろって、阿佐ヶ谷のピーコックにくり出した。
荷物持ちの1年生(でみちゃんと私)、品定めの先輩2人。
そういえば、寮に代々伝わる大きめの鍋がある。これは何に使うのかと不思議に思っていた。
寮に戻ると、先輩が嬉々として、料理にとりかかった。
「リーちゃん、大根の皮をむいて」
「ハイっ!」
「でみちゃん、卵ゆでて」
「ハイっ!」
ってな具合で、始まる。
先輩は例の大きめの鍋に、水を張り、火にかける。
次に、「おでんのもと」をダダダと入れる。「これがあれば、百人力」ってなことで、あとは用意した材料をバッサバッサと放り込む。
「サ、OK! あとは順番で、見張りね」
ってなことで、完了なんだ。
「え? これだけなんですか?」と不安がる1年生。
「そ」
あとは、お友達の部屋に案内に行く。
「今夜は、うちの部屋はおでんパーティだから、来てねぇ〜〜〜」
私達は、交代でガスレンジに立ち、吹きこぼれないように見ながら、時々、あくをとる。
「ろくに味見もしてないのに、大丈夫なのかなぁ? ねぇ、でみちゃん」やっぱり不安な1年生。
「ギャァ〜〜・せんぱ〜〜い・はんぺんが大変なんですぅ」と悲鳴を上げながら、私とでみちゃんが走る。
「どうしたの?」
「はんぺんがお化けになっちゃった」一番上に乗っている「はんぺん」がふくらんで、でかくなったのだ。
先輩は笑いながら、「大丈夫・大丈夫」
やれやれ。やっぱ先輩はすごい。
そのうちに、いい塩梅に煮えてきた。
「どれどれ」と全員で味見。「うまぁ〜〜〜い(*^.^*)」「ヤッタァ〜」
4人で鍋をかかえて、部屋に戻る。
「出来たよぉ〜」と部屋部屋に伝えに行く。
お皿とお箸を持って、皆さんが集まる。
「サササ、どうぞ・どうぞ」とお客人に配る。
「おいしぃ〜〜〜」と皆、満足。
おでんパーティの夜は、部屋のドアを全開にあけておく。次から次に客人がやって来る。
で、あっという間に鍋が空になる。遅れて来た人は残念。ごめんなさいの盛況ぶり。
全員、大満足。
ってなことで、冬になると、あちらこちらの部屋で「おでんパーティ」が開催されるのだ。
呼んだり、呼ばれたりで、楽しい夜を過ごす。
今でも、「寮のおでんパーティ」が開催されるかどうかはわからない。
なにしろ、4人部屋はなくなり、1人部屋になったという噂をきいた。そうでもしないと、最近の若い方は寮には住まないそうだ。
一人で、おでんを作っても楽しくないだろね。
さて、おでんは、かくも簡単に作れるものなのか、と自信がつき、私の得意料理ナンバーワンは、「おでん」に決定。
当時よりは格段に進歩し、出汁を吟味したりするが、ま、基本は一緒。
ダダダと材料を入れて、ぐつぐつ煮て、ハイできあがり。
さてっと、久しぶりに「おでん」を作ってみるか。