14. 林先生---2 (1998.11.18)

書道部の林先生のことを書き留めたい。

出会った時、先生はすでに89歳だが、どう見ても70代にしか見えなかった。
その理由は、補聴器をつけていない。元気に歩く。記憶がはっきりしている。言葉もはっきりしている。
筆を持つ手は震えないどころか、私より若々しいスピードのある字を書く。

どんなに考えても70代だと思った。もうじき90と聞いて耳を疑う。

私の祖母は、80代だが、耳も聞こえず、ベッドに横になったきりだ。歩くことも出来ない。
記憶の方もあいまいである。

20代、30代は、同じような調子で年をとる。
その後からは、歴然と「若い人」と「そうでない人」の差が出るから不思議だ。

さて、書道の話だが、「ちっとも書けない」と愚痴ると、「いったい、どのくらい書いたのか?」と先生は言われる。
先生は、「修行時代には、毎晩2時まで一日じゅう書いた」そうだ。
「どのくらい書いたか?」に返す言葉がない。

「努力は必ずや字に表れる」と言う。
「努力」という言葉を、滅多に聞かなくなった。
私の少女時代は、スポコンものが流行っていた。なぜか教室には、「努力」と「根性」の文字があったことを思い出す(ど根性ガエルというのもいた)。
「努力することは大事なこと」「努力すれば、必ずむくわれる」と、力が沸いてくるような言葉を残して、先生は書道部を去られた。

私の目には、星飛馬のように「キラリ☆」と星が輝くのであった。