10. うちのばあさん (1998.11.12)

今、うちのばあさんは病院のベッドにいる。
3月に入院してからずっといる。どうやら本人に退院する気がないらしい。
思うに、そこは居心地がいいのだろう。

先日「調子がいいから一度帰ってみますか?」と車椅子にのせられた途端に気分が悪くなり、熱を出し、輸血された。「病は気から」そのものだ。

ばあさんは、負けず嫌いだから、近くにライバルがいれば復活するはずなのだが、ばあさんのライバル達は皆、亡くなってしまった。
あとに残った者は「おばあちゃん、おばあちゃん」と言って、優しくする。

前に一度、ボケかけて皆が心配した。とうとう来たか、と覚悟を決めた。
そんな折、頭にきた弟が「この、くそババァ」と怒鳴った。
ちなみに、弟は我が家の跡取りで、ばあさんは、弟が生まれた時から、そりゃかわいがった。その孫に言われたもんだから、受けたショックは想像を絶するものだったらしい。来る客、来る客、相手を問わずに、「くそババァ呼ばわりされた」と涙ながらに訴える。話が誇張されていったに違いないが、いずれにせよ、それが脳を刺激し、見事にボケから立ち直った。

最近、ばあさんは、別人のようにおとなしくベッドに横たわっている。それでも私達が見舞いに行くと憎まれ口をたたくから、こっちも負けずにジャブを返す。

そんなやりとりが、ばあさんの脳を刺激し、不死鳥のごとくよみがえってほしい、と願っている。